ウェブ進化論とコンサルティング会社の今後
- 作者: 梅田望夫
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2006/02/07
- メディア: 新書
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最近読んだインターネットのトレンドに関する本の中では、全体像の明確さや分析の鋭さという意味で最も面白かった。
ブログによる表現者層レベルの底上げ
その中の「ブログと総表現社会」の章に関しては、私が最近顕著に感じていたブログの質の高さについて、下記のような視点で表現されていた。
私は、この二つの層の間に、総表現社会参加者という層をイメージするべきだろうと考える。一万人でもなく一億人でもない、たとえば1000万人の層。「一万人に一人」ほど気象ではないけれど「10人に一人」くらいの人たちの層。これが、ブログを序章とする総表現社会の到来によって浮き上がってくる新しい層である。
この本では「一万人」の層の「レベル」については(恐らくあえて)あまり触れていなかったが、私個人の実感としては下手な本よりはブログの方が明らかに鋭い分析や有用な情報が多いと感じることが多い。
さらにテレビのコメンテーターの発言は有象無象のブログと同等かそれ以下の発言であることも多いと感じるのは私だけであろうか。
コンサルティング会社の今後
それだけではなく、戦略系コンサルティング会社で数千万〜1億規模のプロジェクトの結論といえるような鋭い言説を、普通の個人がブログで表現していたりするようなこともあるから驚きである。
(もちろんコンサルティング会社の仕事は、最終的な結論を言うだけではなく、そこにいたる明確な論理や事実情報が必要であり、また経営の意思決定を促し、多くの場合現場の動機付け、戦略の導入といったことまで支援するため、そのブログの発言でコンサルティング会社の機能が代替されるとまでは言えないが。)
戦略系のコンサルティング会社の若手の主業務は、多くの場合プロジェクトの仮説に基づきリサーチ・分析をして、そこから何が言えるかを考えることにある。
以前であれば、彼らのアウトプットはリサーチ・分析において、下記のような情報源に容易にアクセスできるため、若手であってもクライアントが納得するようなメッセージ・アウトプットを出せるという側面があった。
・日経テレコンなどの有料データベース
・有料の市場調査レポート
・MDBなどの有料調査機関の情報
・過去のプロジェクトの調査結果、分析視点
・先輩社員の知見・経験、分析視点
しかしながら、ブログによる総表現社会の実現、およびRSSリーダーなど各種ツールの普及は、アクセスできる情報や分析視点の差を劇的に縮めている。従って、情報や分析視点の非対称性だけで勝負していたようなコンサルタントは、それだけで生き抜いていくことが難しくなることが容易に想像できる。
従って、今後コンサルタントはより深い洞察やクリエイティビティの発揮で差別化していくか、関係者の動機付けや導入支援の分野で差別化していく必要がでてくる。
最近は某戦略コンサルでも、案件の多くは戦略の立案だけでなく関係者の動機付け、導入支援がセットとなってきているが、その一因はブログによる総表現社会の実現によるものなのではないかと考えている。
なお、蛇足であるが、戦略立案後の関係者の動機付けや導入支援に関しては、「戦略」をただ「導入」すればいいんだという乱暴なアプローチから、各種ツールやスキルの活用、心理学を駆使したアプローチまでさまざま存在するが、この分野は意外にまだ体系だった考え方が整理されているとは言えない。このことについてはまたの機会に考えてみたい。