ロジカルシンキングとクリエイティブシンキング

ここ数年、ロジカルシンキングが花盛りだ。
5年前くらいまではコンサルやMBAのにおいがしたこのスキルも、今ではかなり一般的に浸透してきた。

巷の「ロジカルシンキング」への違和感


現在、仕事としてロジカルシンキングの講師をしているが、そこで思っていることを見事表現している本を見つけた。

クリエイティブ・シンキング―創造的発想力を鍛える20のツールとヒント

クリエイティブ・シンキング―創造的発想力を鍛える20のツールとヒント

通勤大学MBA〈14〉 クリエイティブシンキング (通勤大学文庫)

通勤大学MBA〈14〉 クリエイティブシンキング (通勤大学文庫)

上記のどちらの本も、何か新しい企画や新規事業を生み出す際には、発散思考のクリエイティブシンキングと収束思考のロジカルシンキングの双方が必要であり、ロジカルシンキング偏重の現状に警笛を鳴らしている。


上記はまさに自分がロジカルシンキングを教えながら感じていた感覚である。
つまり、ロジカルシンキングができるようになれば、企業の問題解決や新しい新規事業の案が創出されるかのようなニュアンスを醸し出している本や研修に対する違和感である。


ではそれはどのような違和感か?


今泉浩晃のMandal-Art Eye」にはこう書いてある

論理は 必ずしも「モノ」を創り出さない。
いや 創れない といった方が正しい。
論理は 宿命として 飛躍が出来ないからだ。


確かに論理とは、階段を一段ずつ上がっていくような思考方法であり、飛躍を禁じる傾向がある。


ところが、その一方でロジカルシンキングのスキルにはひとつブラックボックス化しているスキルがある。
それが仮説の創出である。


仮説の創出には、論理的な枠組みを意識する場合はあっても必ず飛躍の思考がなければ生み出されない。


私が感じていた違和感とは、実際の企業課題の解決にとっては、ロジカルシンキングとともに仮説の創出≒クリエイティブシンキングが必要であるのにもかかわらず、そのスキルの必要性について何も触れていない本や研修が多すぎることである。

コンサルタントの頭の中身

では、最前線のコンサルタントの頭の中身はどうなっているのか?
確実にいえるのは、売れっ子のコンサルタントのほとんどは双方の能力を持っているということ。


先ほど触れたように、仮説とは論理的な飛躍がなければ作られないものである。そして面白い仮説が言えないコンサルタントは、必ずクライアントから見放されるといってもいいだろう。客商売の世の中で、当たり前のことばかり言っていて生き残れるわけがない。そうだとした場合、最前線のコンサルタントは、ロジカルシンキングとクリエイティブシンキングの双方が備わっているといえるであろう。


どちらかというと、新人のコンサルタントのほうが頭でっかちにロジカルシンキングを掲げすぎているような場合もある。

クリエイターの頭の中身

一方で、クリエイターの頭の中はどうなっているのだろうか?それが知りたくてこの本を読んでみた。

ひとつ上のアイディア。

ひとつ上のアイディア。


結論から言えば、クリエイターもクリエイティブシンキングとロジカルシンキングを併せ持つタイプが多いということを実感した。


特に印象に残っているのは佐藤可士和がキリンの「極生」を作ったときの話である。
キリン 極生 500ml×24缶 ケース

たとえば、キリンの「極生」の場合なら、ぼくは消費者の意識のなかの「発泡酒のポジション」を変えたいと考えました。
(中略)
発泡酒」という言葉には、本当はビールを飲みたいのだけれど、経済的な理由でやむを得ず選んでいるという、一抹の寂しさがつきまとっていました。
僕はそれを「極生」で解消したいと思ったわけです。
ファッションにしても、Tシャツにジーパンというスタイルを選ぶのは必ずしもお金がないからではありません。スーツを着てもいい、ネクタイを締めてもかまわないのだけれど、でも好きだからあえてTシャツとジーパンを選ぶという時代です。
ぼくは発泡酒を「Tシャツとジーパン」のような存在にできないと考えました。
(中略)
こんなふうに、人の意識の中での発泡酒のポジションを替えたいと思って、「極生」のデザインをしたわけです。


これぞまさにロジカルシンキングとクリエイティブシンキングをフル回転させてなせる業であろう。

二つのスキルをどのように共存させるのか?

やるべきことは大きく2点ある。


まず、ロジカルシンキングとクリエイティブシンキングのそれぞれを、どのような場面でどのように使い分ければよいのかを明確にすることである。
ざっくりといえば発散のステージではクリエイティブシンキングで、収束のステージはロジカルシンキングということであろうが、細かく言うと、たとえばいったん収束させた後、仮説を修正するときにはクリエイティブシンキングが必要になるといったことを明確にし、体で覚える必要がある。


その上で、ロジカルシンキングとクリエイティブシンキングのそれぞれの能力を、必要な時期に必要に応じて出し切れるよう双方のスキルを高めておくことができれば良い。


それができれば鬼に金棒である。